内在化された作業モデル(内的作業モデル)と女性の性欲の関係

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女性の性欲に影響を与える要因は様々です。

パートナーとの関係や日常のストレス、過去のトラウマが性欲低下の原因となっていることもあります。

そんな中で意外と見落とされがちなのが母親との関係です。

子供時代の親子関係が成人後の女性の性欲に影響を与えることがあるのです。

内的作業モデルとは?

人は赤ちゃんの頃から世話をしてくれる相手(親や保護者など)とのやりとりを通して、「自分と他人はどういうものか」を学んでいきます。

たとえば、泣いたときに親がすぐに抱きしめて安心させてくれたとします。すると、「自分は大事にされる存在なんだ」「他人は頼れる存在なんだ」と思えるようになります。

逆に泣いても無視されたり怒られたりすると、「自分は愛されていない」「他人は助けてくれない」と感じるようになります。

こうして学習したことが、自分と他人を判断するときの基準となります。

つまり親との経験が判断基準として心の中に内在化されるということです。そして親以外の他人を見るときにもこの基準を使うのです。

このように、経験によって学んだデータによって構築された、自分と他者に対する捉え方の枠組みを心理学では「内的作業モデル(Internal Working Models)」といいます。

親子関係と身体イメージが性欲に与える影響

内的作業モデルと女性の性欲の関係について調べた、コロンビア大学のユージニア・チェルカスカヤ博士らの研究があります。

この研究では、約600人の女性(平均年齢25.5歳)を対象に、親子関係、自分自身に対する身体イメージ、性欲について聞き取りを行いました。

その結果、安定した親子関係によって作られた、内的作業モデルが身体イメージをポジティブにし、その影響により性欲が高まることが分かりました。

身体イメージと性欲の関係

まず、身体イメージと性欲には次のような関連がありました。

  • 性的主体性(Sexual Subjectivity):自分の性的欲求や快楽を主体的に感じ取り、それを追求する権利があると認識する能力。これが高い女性は積極的かつ肯定的に自分の欲求を受け入れやすい。
  • 性器イメージ(Genital Self-Image):自分の性器に対する認識や満足度。性器イメージがポジティブな女性は自分の身体に対する自信を持ち、性的活動において快適さを感じやすい。否定的な性器イメージを持つ女性は不安や羞恥心を感じやすく、それが性的欲求を低下させる要因となる。
  • 自己客体化(Self-Objectification):自分の身体を他者に「見られる対象」として認識すること。高い自己客体化傾向を持つ女性は、性的な場面で自分の見た目を過剰に意識してしまい、性的体験に集中できなくなる。

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親子関係と心理的な独立と性欲の関係

幼少期に親との間で形成される絆を内在化することで作られる人間関係、つまり愛着スタイルと女性の性欲も関連していました。具体的には以下の通りです。

愛着スタイルと性欲の関係

  • 回避型愛着の女性: 他者に頼ったり、自分を開示することを避ける傾向がある女性のこと。回避型愛着が高い女性は性的な場面で身体的・感情的な距離を取る傾向があり、それが性的欲求を低下させる要因となる。
  • 不安型愛着の女性: 他者からの承認を強く求めたり、見捨てられることを恐れる傾向がある女性のこと。不安型愛着が高い女性は、性的な場面で両価的な感情(欲求と不安)を抱え、性的欲求に影響を及ぼす可能性がある。
  • 安定型愛着の女性:上記の2つの傾向が低い安定した女性のこと。性的欲求が高い傾向がある。これは安定した愛着が性的な親密さや快楽を受け入れる土台を提供するためと考えられる。

心理的な独立

また、母親からの心理的な独立も性的欲求に関与していることが示されました。これは、母子一体の感覚から抜け出し、精神的に分離し、個別性を確立する能力のことです。

この分離が不十分な場合、女性は性的な主体性や欲求を感じにくくなります。特に母親への過度な依存や未解決の葛藤が性的欲求を抑制する要因となります。

一方で、健全な分離を達成した女性は、自身の性的欲求や身体的快楽を主体的に感じ取る能力が高いことが確認されました。つまりセックスを楽しめる心の土壌があるということです。

内的作業モデルが身体イメージに与える影響

実はこの研究では親子関係と性欲の相関はそこまで強くはありませんでした。

相関が強くなるのは、身体イメージが媒介したときだったのです。

つまり、幼少期に安定した親子関係を形成し、自分自身に対してポジティブな見方をする内的作業モデルが作られた場合に、より性欲が高くなるということです。

自分の身体に対して良いイメージを持つと、自尊心や満足感が生まれ性的行為を楽しめる能力が高まります。それによって性欲も高くなるのです。

逆に不安定な親子関係により、ネガティブな見方をする内的作業モデルが作られた場合には、身体イメージが低下し、性欲も低くなりやすいということです。

ですから、性欲低下に悩む女性は、幼少期の親子関係を振り返ると何らかのヒントを得られるかもしれません。それによってネガティブな自己評価をする癖があることに気づけばそれを改善する思考を持てば良いのです。

とはいえ、仮にそれをしなくとも、マインドフルネスやヨガなどによって、身体イメージを高めることは可能ですから、無理にトラウマをほじくり返さなくても良いかのもしれませんが…。

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参考文献:Cherkasskaya E, Rosario M. (2017). A Model of Female Sexual Desire: Internalized Working Models of Parent-Child Relationships and Sexual Body Self-Representations.