女性のオーガズムは、クリトリスや膣の刺激など、性器への直接的な接触によって引き起こされます。
身体への刺激が脊髄を通じて脳に神経信号を送り、脳内で化学反応を引き起こすことにより、オーガズムが誘発されるのです。
つまり性器から脳という「下から上への」プロセスとされています。
しかし、これとは逆の「上から下への」プロセス、すなわち脳から始まる内的な経験や想像がオーガズムを引き起こすこともあります。
睡眠中や運動中、あるいは強烈な想像やファンタジーに没頭することで、性器に物理的に触れることなく、オーガズムを経験する女性の例も報告されています。
これらの現象は本人も意図しない形で生じることが多いですが、中には自分の意思で触れずにオーガズムを引き起こせる女性もいます。
今回はそんな女性を研究室に呼んで行われた、カレル大学のジェームズ・G・ファウス博士らの実験を紹介します。
触れずにイッた後のホルモンを測定
この実験の対象となったのは33歳の女性です。
この女性はかつて膣痙攣や挿入時の痛みが原因でイクことができなかったことから、それを改善しようとヨガのトレーニングを10年間行ったところ、性器を刺激することなくイクことができるようになったのだそうです。
実験の方法は至ってシンプルです。この女性に触れずにイクということを行ってもらい、その後に血液を採取し、ホルモンなどの変化を測定したのです。
オーガズムに達すると血中のホルモン値が変化しますから、それを確認すれば本当にイッたかどうか判断できます。
以下が実験の動画です。本当にオーガズムに達しています。
5分間イキ続けるパターンと、10分間イキ続けるパターン
この実験では5分間イキ続けるパターンと、10分間イキ続けるパターンの2回を実践してもらいました。
その結果どうなったかというと、5分間イキ続けた後ではプロラクチンの量が約25%、10分間イキ続けた後では45%も増加したことが分かったのです。
プロラクチンはオーガズムに達したときに分泌されるホルモンです。今回のプロラクチンの変化量は物理的な刺激によるそれと同一レベルとされています。
つまり本当に触れることなくオーガズムに達したということです。
比較のために10分間の読書の前後の血液も採取して調べていますが、読書ではこのような変化は発生しませんでした。
どちらが気持ち良いのか?
この女性はヨガのトレーニングのおかげで膣痙攣も改善され、体に対する物理的な刺激でもイケるようになりました。
それらの直接的な刺激と、触れずにイク場合では感覚に違いがあるのかということも聞き取っています。
それによると肉体的な快楽においては同じ程度ということです。
しかし、親密な感覚やエクスタシー(恍惚感)は触れずにイク場合のほうが少し鈍いとのことです。
タントラ・ヨガ&トレーニングの内容
今回の女性が行ったヨガはインド発祥のタントラ・ヨガと呼ばれるものです。
タントラ・ヨガとは身体と精神の統合を目指す伝統的なヨガの一種です。身体、エネルギー、心を調和させることを通じて、自己認識を深め、精神的な成長を促すことを目的としています。
「タントラ」とは「拡大」や「解放」を意味するサンスクリット語で、古代インドの哲学体系でもあります。
このタントラ・ヨガのほかに、骨盤底筋のエクササイズ、乳房マッサージも行っています。
さらに日常生活にもマインドフルネスを取り入れ、恥や罪悪感を解放しリラックスする方法も実践しています。
もともと、触れずにイケるようになろうと思っていたわけではないそうですが、これらのトレーニングによって快感を得る能力が敏感になり、ほぼ瞬間時にオーガズム状態になることができ、それを長時間持続させることができるようになったとのことです。
ヨガやマインドフルネスによる性機能の向上効果
「自分も触れずにイケるようになるぞ」と思った人は少ないかもしれません。
しかし、ヨガやマインドフルネスを取り入れることで性機能が向上することは複数の研究で分かっています。
それだけでイクことが出来なくとも、感じやすさや満足感は増えるかもしれません。
そもそもの性欲が低いという人も、マインドフルネスによって高まることもあります。
性的快感には身体的な要因だけではなく、心理的な要因も大きく影響します。
自分を解放し、リラックスすることができれば、より良いオーガズムを得られるはずです。
参考文献:Pfaus JG, Tsarski K. (2022). A Case of Female Orgasm Without Genital Stimulation.