夫婦間における家事の分担や金銭管理、休日の過ごし方などを決めるとき、常に妻か夫のどちらか一方が主導権を握っているということはないでしょうか?
もしそうならセックスレスになってしまうかもしれません。既にセックスレスならそこに原因があるかもしれません。
実はこうしたパワーバランス(=力関係)が夫婦の性生活にも影響することが分かっているのです。
なぜならパワーバランスが均衡しているかどうかで「性的情熱」の種類が変わるからです。
調和的情熱と抑制的情熱
パートナーとセックスをしたいと思うのは性的情熱が芽生えるからです。
この性的情熱は、調和的情熱と抑制的情熱の2種類に分類することができます。
前者であれば健全な性生活を送れますし満足度も高まりやすいですが、後者の場合は不満が溜まりやすく、セックスそのものに対するモチベーションも下がってしまうことがあります。
それぞれの情熱についてもう少し分かりやすく説明しましょう。
【1】調和的情熱
調和的情熱とは、自分の感情や価値観に合う形で「性」を前向きに楽しむエネルギーのことです。
この情熱を持つ人は、セックスを「義務」としてではなく、つながりを感じる大切なものとして受け入れるています。
また、パートナーに対して信頼や安心感を抱いているのも特徴です。
「自分から誘っても良い」「拒まれても関係が壊れることはない」という心理的安全性があるため、欲求を素直に伝えることができます。
お互いの性欲のタイミングが合わない日でも、落ち込んだり、相手を責めたりすることはありません。
調和的情熱を持つ人は性的満足度が高いだけでなく、関係全体の幸福感も高まりやすいことが分かっています。
【2】抑制的情熱
抑制的情熱とは、性的欲求を感じていながらも、それを表現することに不安や罪悪感を覚える状態のことです。
「誘ったら引かれるかもしれない」「相手に拒まれたら傷つく」といった恐れが生じ、感情や欲求を押し込めてしまうのです。
抑制的情熱が強いと無意識に「相手に合わせること」が当たり前のようになってしまいます。
その結果、セックスは愛の交流ではなく、「期待に応える義務」や「避けたい行為」に変わってしまうのです。
欲望を抑えることが続くと、自分の内側に「恥ずかしさ」や「無力感」が積み重なり、次第に性的な関心そのものが薄れていくこともあります。
夫婦のパワーバランスが性的情熱の種類を決める
調和的情熱と抑制的情熱の強さを決めるのは何でしょうか?
それは夫婦間のパワーバランスです。
テキサス大学などのチームが新婚夫婦1,668組を対象に行った調査があります。
この調査では夫と妻の双方から、主に以下の内容を聞き取りました。
- パワーバランス(例:意見が一致しないときどちらの意見が優先されるか?)
- 調和的情熱(例:性を愛情や自己表現の自然な一部として楽しめているか?)
- 抑制的情熱(例:欲求を感じても罪悪感や不安で抑えがちになるか?)
結果を分析したところ、平等なパワーバランスが保たれていると感じている人ほど調和的情熱が強く、パワーバランスが不均衡と感じている人ほど抑制的情熱が強いことが分かりました。
自己決定理論と夫婦の性生活
なぜこのような結果になったのでしょうか?
それは「自己決定理論」で説明することができます。
自己決定理論とは
自己決定理論とは人間が「自分からしたい」と思う内発的動機を高める要因を説明した理論です。
この理論によれば内発的動機を高めるには以下の3つの欲求が満たされることが必要とされています。
- 自律性の欲求:自分の意思で選びたい
- 有能感の欲求:自分の行動に意味や効果を感じたい
- 関係性の欲求:他者とつながっていたい
これら3つの欲求が満たされると、自然と内発的動機が高まり、「自分が本当にしたいからする」という感覚が強くなっていくのです。
逆に、これらが満たされないと、外発的動機、つまり「嫌われないため」「怒られないため」といった圧力に従って行動するようになります。
夫婦の性生活に当てはまる
そしてこの自己決定理論のメカニズムは夫婦の性生活にも当てはまります。
夫婦関係のパワーバランスが健全に保たれた状態というのは、これらの欲求が満たされているということですから、自分からしたいという調和的情熱が強まりやすいということです。
逆にパワーバランスが不均衡な状態はこれらの欲求が満たされていないということですから調和的情熱は弱まり、自分を抑えて「相手のためにする」という抑制的情熱が強まりやすいということです。
そして、これらの情熱が夫婦生活の頻度や満足度に影響を与えるのです。
夫婦のパワーバランスを均衡させて性生活の質を上げる
以上のように夫婦間のパワーバランスが対等であると、性生活がより良いものになることが分かりました。
健全なパワーバランスを育むには、家事の分担や買い物の選択といった日常の小さな場面で、意見を聞き合う姿勢を持つことが重要です。
このような習慣が積み重なると、夫婦間に「私達は対等なパートナーだ」という感覚が自然に育ちます。
この感覚が根づけば、セックスにおいても「自分の気持ちを言っていい」という自信が生まれ、お互いの欲求や境界を尊重し合えるようになるのです。
性的な対等さは、日常の対等さの延長線上にあるということを忘れないでください。
☑︎夫婦関係に疲れるのは「感情調整の困難さ」が原因。オーセンティシティを高めて改善する
参考文献:Forbush, A., Busby, D., Yorgason, J., & Holmes, E. (2025). Power and passion: An exploration of the relationship between marital power processes and sexual passion styles.