人間は他社とコミュニティを形成し、その中で生活する社会的な動物です。
そのため、「他者と結びつきたい」という基本的な欲求を持っているとされます。特に家族や恋人のような親密な関係の相手とはより絆を強めたいと考え、精神的にも肉体的にも近づきたいと思いやすいものです。
しかし、中には「旦那に触れられたくない」という人もいます。
この場合、元から触れられるのが嫌いなタイプと、現在の心理的な状況によって触れられたくないと思っているタイプの2パターンが考えられます。
前者は回避型の愛着スタイルを持っており、後者は何らかの理由によって性的な行為に対する嫌悪感が高まっている可能性が考えられます。
それぞれの心理について説明します。
回避型の人は触れられるのが嫌い
人間は他者とのコミュニケーションをどう取るかという「型」を持っています。
これを「愛着スタイル」と呼び、大きく次の3つに分けられます。
- 安定型:他人との親密さを心地よく感じ、信頼関係を築きやすい。愛すること、愛されることの両方に安心感を持つ
- 不安型:「見捨てられるのでは」と不安を抱きやすい。連絡がないとすぐに心配になったり、過剰に相手を求めたりする
- 回避型:他人との距離が近づくと息苦しさや圧迫感を感じやすい。「頼るより自分で何とかしたい」という思いが強く、親密さに警戒心を抱きやすい
これらの愛着スタイルは幼少期に育った家庭環境、とくに親がどう接してきたかによって形成されます。
回避型は旦那や彼氏に触れられるのが苦手
もし、あなたが回避型の愛着スタイルを持っているのだとしたら、旦那や彼氏に触れられることに嫌悪感を抱きやすいかもしれません。
なぜなら無意識のうちに「自分の心が傷つく」と錯覚しているからです。
回避型の人の場合、子供時代に親や身近な大人に甘えようとしたとき、拒まれたり、無視されたり、厳しくされた経験を持っていることが多いです。
これによって「誰かに近づくと傷つく」という感覚が心の奥に刻まれているのです。
そして、大人になって彼氏や旦那が近づいてきたときにも、無意識に「この人も結局は自分を傷つけるかもしれない」と身構えてしまうのです。
この反応は、脳と身体が安全を守るための習慣として身につけたものですから、理屈でコントロールできるものではありません。
相手に悪意がなくても、「優しくされること」や「触れられること」自体が、過去の痛みを思い出させ嫌悪感につながってしまうのです。
回避型の傾向を変えるには
回避型の愛着スタイルを持つ人が「旦那に触れられたくない」と思ってしまう状況から抜け出すことは不可能ではありません。
まず、自分の気持ちを否定しないことが大切です。触れられたくないと感じるのは、人を愛せないからでも冷たい性格だからでもありません。
経験によって身についた「条件づけ」です。
そのため新たな経験を重ねることで変えることが可能なのです。
今は触れられることへの不安を抑圧するよりも、「そう感じているんだな」と認めることで少しずつ心が落ち着いていきます。
そして自分が安心できるスタイルを知りましょう。たとえば、スキンシップよりも言葉や行動で愛情を感じるタイプの人もいます。
「優しく話しかけてもらう」「家事を手伝ってもらう」「一緒に静かに過ごす」など、あなたが安心できる関わり方をパートナーに伝えることが大切です。
安心感が育ったうえで少しずつ触れ合いを増やし、「あ、大丈夫なんだ」という感覚を繰り返していくことで少しずつ変わっていけるのです。
性的意図を過大に評価し嫌悪感を抱いている
回避型の愛着スタイルの人でなくとも、「旦那に触られたくない」という心理を持つことはあります。
この場合、スキンシップされたときに性的意図を過大に評価してしまっている可能性が高いです。
今まではそんなことがなかったのに、ここ最近で触れられることへの嫌悪感が強まったというなら、こちらのパターンかもしれません。
そしてその原因は、自分自身の性的欲求や性機能の低下にあるかもしれません。
性的な問題とスキンシップへの感覚
女性の「性的な問題」と「パートナーからの身体的接触への感じ方」を検証した、ケイト・ランコート博士らの研究があります。
この研究では、まず300人以上の女性の性的な問題を測定しました。具体的には以下の項目について専用のスケールによって確かめました。
- 性的欲求
- 興奮
- 膣の潤滑
- オーガズム
- 性的満足度
- 痛み
愛情的な接触にさえ嫌悪感を抱く
それから、パートナーから身体的な接触(ボディタッチ)をされたときに、どう感じるかを評価しました。
その結果、性的欲求が低かったり、性行為中の身体的問題を抱えている人ほど、パートナーから接触されたときの性的意図を高く評価しやすいことが分かりました。つまりセックスに誘っていると思いやすいということです。
また、触れられたときに嫌悪感を持ちやすいことも分かりました。これは胸やお尻といった性的でない箇所への愛情的な接触であっても、同様でした。
性欲低下や性機能の問題を抱えて居る女性は、手や肩といった性的でないパーツに触れられても嫌悪感を抱きやすいということです。
なぜ嫌悪感を抱くのか
性的な問題を抱えた女性ほど触れられたときの嫌悪感を抱きやすいのには、過去の経験や認知の仕方が影響しています。
過去のセックスで痛みを感じたり、性欲が高まっていないのに行為を受け入れたことで虚しい気持ちを抱えた経験があると、それが不快なものとして学習されます。
そして、身体的接触がそうした不快な行為の始まりのサインとして認識されると、それだけで否定的な感情が高まるのです。
つまり、触れられるという行為そのものが嫌というより、その触れ方が持つ意味を嫌がっているということです。
「触れられる=性的なことが始まる」という思考を消す
旦那に触れられたときに不快感を抱いてしまうのは必ずしも悪いことではありません。
心が「安心できていない」と知らせているサインなのです。まずはそのサインを受け入れることです。
性的問題を抱える女性は、過去の経験から「触れられると応えなければならない」「相手を拒むと関係が悪くなる」といったプレッシャーを感じていることが多いです。
ですから、まずはそれを旦那に伝えて理解してもらうことが必要です。
そして性的意図のない触れ合いを通じて「触れられる=性的なことが始まる」という自動的な考え方を消しましょう。
そうすることが、嫌悪感を減らすことにつながります。
参考文献:Kate M. Rancourt, Sean MacKinnon, Nicole Snowball & Natalie O. Rosen (2016): Beyond the Bedroom: Cognitive, Affective, and Behavioral Responses to Partner Touch in Women With and Without Sexual Problems, The Journal of Sex Research.