女性のオーガズムはなぜ存在するのか?「ミスター・ライト仮説」とは何か

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女性のオーガズムは性科学の世界でも長年に渡り謎とされてきたテーマの一つです。

男性のオーガズムは射精を伴い、生殖に直接結びついていますから、機能的な意味があるといえます。

しかし、女性のオーガズムは生殖のために必要不可欠ではありません。

それにもかかわらず、なぜ女性にもオーガズムがあるのでしょうか?

今回は有名な仮説とともに、女性のオーガズムの意味について書いていきたいと思います。

女性のオーガズムに関する進化的仮説

女性のオーガズムについては二つの主要な進化的仮説が存在します。

一つは単なる進化の副産物に過ぎず、特定の機能を持たないという説です。

これは女性のオーガズムが男性のオーガズムの進化の過程で偶然に生じたものであり、生殖や配偶者選択に直接的な役割を果たさないとする考え方です。

もう一つの仮説は女性のオーガズムが独自の進化的機能を持つというものです。

この仮説では女性のオーガズムが配偶者選択ペアボンディング(長期的な絆の形成)において重要な役割を果たすと考えられています。

この仮説では女性のオーガズムが単なる快楽の源ではなく、進化の過程で選択された生存戦略の一部であるとされます。

今回はこちら、つまり女性のオーガズムには意味があるという仮説を基に話を進めたいと思います。

「ミスター・ライト仮説」:オーガズムと配偶者選択の関係

女性になぜオーガズムがあるのか?ということを説明する仮説の一つに「ミスター・ライト仮説(Mr. Right Hypothesis)」というものがあります。

「ミスター・ライト」とは「パートナーとして理想の男性」を意味する英語のスラングのようなものです。

ミスター・ライト仮説は、女性のオーガズムが配偶者選択において重要な役割を果たすという考え方に基づいています。

この仮説によると女性はオーガズムに導びかれることで、その男性に対し、自分のニーズや欲望に対する感受性、深いコミットメントを持っていると肯定的な判断をするのです。

その結果、長期的なパートナーとして選択する可能性が高まると考えられます。

分かりやすくいうなら、「セックスでイカせてくれるということは、他の部分でも色々と尽くしてくれるタイプだろうから結婚しても良いかな」と判断するということです。

「ミスター・ライト仮説」を検証する実験

ミスター・ライト仮説が正しいのかを証明するのは難しいのですが、エルムハースト大学の研究者らが約200名の女子大生を対象に面白い実験を行っています。

この実験の参加者は、架空の男性「マイケル」との関係におけるシナリオを読み、その関係について考えるよう指示されました。

このときのシナリオはセックスについても言及されており、オーガズムの頻度によって次の3パターンが用意され、参加者はそのうちのどれかに割り当てられました。

  • 全くオーガズムを経験しない
  • 時々オーガズムを経験する
  • ほぼ毎回オーガズムを経験する

参加者はそれぞれのシナリオに基づいて、自分がその関係にいたとしたらどの程度満足できると思うか、またパートナーとしての長い関係を持ち続ける可能性はどれくらいあるかを評価しました。

さらに、パートナーである「マイケル」に対する愛情やコミットメントの度合いについても評価しました。

研究結果:「ミスター・ライト」仮説の検証

実験の結果、オーガズム頻度が高い条件に割り当てられた女性ほど、関係に満足するだろうと評価することが明らかになりました。

しかし、関係の満足度が高いからといって、必ずしもその男性を長期的なパートナーとして選びたいと感じるわけではないことも分かりました。

つまり、オーガズムの頻度は「ミスター・ライト仮説」が示すような男性を選択する際の指標とはなっていないということです。

確かにそりゃそうだという感じかもしれません。私が女性からの相談を受けている中で「いつもイカせてくれるので旦那と結婚しました」という人には滅多に会わないですから…。

「セックスの相性が良かったことも結婚の決め手の一つではあります」という人はけっこういますが。

ミスター・ライト仮説はちょっと弱いですね…

ペア・ボンディング仮説:愛情とオーガズムの関係

女性にオーガズムが存在している理由について、もう一つの仮説があります。

それは「ペア・ボンディング仮説」です。ペア・ボンディングとは「番(つがい)としての絆」のことです。

ペア・ボンディング仮説は女性のオーガズムがパートナーに対する感情的な絆や愛情を強化する役割を果たすというものです。

つまり、一度カップルになった男女がいつまでも長く一緒にいられるようにするために、女性のオーガズムがあるという説です。

女性はオーガズムに達したとき、感情的な絆の形成に重要な役割を果たすオキシトシンというホルモンの分泌が増えることが分かっていますから、それなりに信ぴょう性のある説といえるかもしれません。

実はさきほど紹介した実験でも、オーガズム頻度が高い条件に割り当てられた女性は、パートナーに対する愛情が深まり、それが関係満足度や関係を維持したいという考えに直接的に影響を与えることが確認されているのです。

人類全体の安定性だけを考えるなら、女性が一度関係を持った男性に対して強い愛情を抱くほうが有利ですから、このようなメカニズムが存在しているのかもしれません。

結論:配偶者選択における女性のオーガズムの意義

女性のオーガズムが配偶者選択にどのように関与しているのかは、進化心理学の中でもよく議論されているテーマですが、いまだに明確な理由は判明していません。

今回の実験を踏まえると、女性のオーガズムは配偶者選択のためというよりは、絆の強化のためという意味合いが強いということになります。

とはいえ、あくまでも仮説ですし、架空のシナリオによる想像での判断ですから、確定できる話ではありません。

それでも女性のオーガズムが性的満足度や結婚生活の満足度と相関があることは、他の調査でも分かっています。

よりよい夫婦生活のためにも、双方がオーガズムに達するための努力は大切だと思います。

参考文献:Nebl PJ, Gordon AK. The Effect of Female Orgasm Frequency on Female Mate Selection: A Test of Two Hypotheses. Evol Psychol. 2022 Jan-Mar;20(1)

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