寝る前にオナニーやセックスをすると、なんだかよく眠れる気がする、という人は少なくないと思います。
このことは、いくつかの研究によっても分かっていることです。
しかし、オナニーやセックスが睡眠の質を高めるためには、一つの条件が欠かせないようです。
159人の性的活動と睡眠の質を分析した結果
寝る前のオナニーやセックスが、「睡眠の質」にどのような影響を与えるのか調べた、オランダのフローニンゲン大学の研究チームによる調査があります。
この調査では、159人の性的活動と睡眠のデータを分析しています。
具体的には、セックスやオナニーをしたかどうか、布団に入ってから寝付くまでの時間、睡眠の質などについて、2週間分の記録を分析しました。
その結果、セックスもオナニーも、それをした日は、寝付くまでの時間を短縮することが分かりました。つまり、いつもより早く眠れるということです。
ただし、これには条件があり、男女ともに「オーガズムに達した場合」にのみ、この効果が見られました。
逆にオーガズムに達していないと、セックスでもオナニーでも、寝付くまでの時間は、いつもより延びてしまう傾向にありました。
睡眠の質についても同様でした。セックスでもオナニーでも、オーガズムに達すれば、睡眠の質は高まり、達しなければ、睡眠の質は低下する傾向が出ました。
なぜセックスやオナニーでオーガズムに達すると睡眠の質が高まるのか?
寝る前のセックスやオナニーでオーガズムに達すると、寝付きが良くなり、睡眠の質が高まる理由には、次のような生理的・心理的なメカニズムが関係していると考えられます。
1.ホルモンの変化
オーガズムのあと、私たちの体内ではいくつかのホルモンが分泌されます。その中でも、睡眠に深く関係しているのが「プロラクチン」と「オキシトシン」です。
プロラクチンは、性的満足や安らぎの感覚と結びついているホルモンで、オーガズム直後に分泌されることがわかっています。
このホルモンには、体を鎮静させ、眠気を引き起こす作用があるとされています。
オキシトシンは「愛情ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、こちらもオーガズムの際に多く分泌されます。
オキシトシンには、心を穏やかにし、ストレスや不安をやわらげる働きがあり、精神的に安心した状態をつくります。その結果、気持ちが落ち着き、より自然に入眠しやすい状態が整うと考えられます。
2.副交感神経が優位になる
オーガズムによって、私たちの体は自律神経のモードを切り替えます。
性的興奮の最中には「交感神経」が優位になり、心拍数が上がったり筋肉が緊張したりする状態になりますが、オーガズムを迎えると一転して「副交感神経」が優位になります。
この副交感神経は、身体を休ませるための神経系であり、リラックスや消化、回復を担当しています。
副交感神経が優位になると、心拍数や血圧は自然と下がり、体温もわずかに低下します。これらの生理的な変化は、私たちが眠りに入りやすくなるための条件と一致しています。
そのため、オーガズム後の体は、まさに「今から休もう」とするモードに切り替わっており、これが入眠をスムーズにしてくれる大きな要因となっているのです。
3.緊張の解放
性的興奮が高まると体には緊張が生まれますが、オーガズムを迎えるとその緊張が一気に解放されます。
この瞬間に訪れる全身の脱力感や快感は、強いリラックス効果を生み出します。
そのため、肉体的な疲労と筋肉のゆるみが合わさって、体と心の両方が「休む準備が整った状態」になり、深い眠りへとつながっていくのです。
4.ストレスホルモンの低下と安心感
オーガズムに達すると、ストレスホルモンである「コルチゾール」が低下するとされています。
コルチゾールは不安や緊張を高め、睡眠を妨げる原因にもなるため、その分泌が抑えられることは睡眠の質の向上につながります。
また、オーガズムによって、安心感や愛されているという感覚を得られると、心の安定につながり、より安らかな眠りを助けてくれるのです。
オーガズムに達しなかった場合に睡眠の質が低下する理由
一方で、オーガズムに達しない場合に、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が下がることがあるのはなぜでしょうか?
それには次のような理由があります。
1.身体が興奮した状態のまま鎮静しない
オーガズムに達しなかった場合には、オナニーやセックスによって高まった、心身の緊張がそのまま残ってしまうことが少なくありません。
通常、オーガズムを迎えることで副交感神経が優位になり、リラックスした状態に切り替わります。
しかし、それが起こらないと交感神経が活発なままで、身体も心も「戦闘モード」のような状態から抜け出せなくなってしまいます。
その結果、呼吸が浅くなったり、心拍数が高いままになったりして、寝つきにくくなることがあるのです。
2.不満やフラストレーション
性的欲求が解消されず中途半端に終わってしまうことで、心理的な不満やモヤモヤが生じることがあります。
「満足できなかった」「ちゃんと終われなかった」という感覚が残ると、その不完全さが頭から離れず、心が落ち着かないまま夜を過ごすことになります。
特にストレスがたまりやすい人にとっては、そのような未解決の感情がさらに不安や焦りを引き起こし、睡眠に悪影響を及ぼすことがあるのです。
3.自己評価の低下や焦燥感
さらに、セックスの場合にはオーガズムに至らなかったことによって、自己評価の低下につながることもあります。
「自分はうまくできなかったのではないか」「相手を満足させられなかったのでは」といった思いや、「自分ばかりが気をつかって終わってしまった」という不公平感などが複雑に交錯し、精神的に不安定な状態になってしまうことがあります。
こうした要因が睡眠の妨げとなり、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりする可能性があるのです。
寝る前にセックスしない方が良いのか?
ここまで、さんざん説明しておいて言うのもなんですが…
結局のところ人によるといえます。
レス状態の場合に、裸で抱き合うことから始めるというカップルもいます。
それにより、愛情や安心感を得ることで、満足して眠れるという人も少なくないのです。
ですから、オーガズムに達しない可能性があるなら、寝る前のセックスは控えた方が良い、と考える必要はありません。
もちろん、イカずに途中で終わると、ムラムラが収まらずに、寝付けなくなるという人もいます。
自分たちがどのタイプなのか見極めることが大切です。
参考文献:Carlotta Florentine Oesterling, Charmaine Borg, et al. (2022). The influence of sexual activity on sleep: A diary study.