妊娠中は性欲が低下すると考えられがちですが必ずしもそうとは限りません。性欲が強くなる女性もいます。
そしてセックスしたいと思っても夫が拒否して数ヶ月セックスレスということもあります。
こうなる原因の一つは妊娠期間中の性欲変化の不一致かもしれません。
妊娠中は夫婦ともに性欲が高くなったり低くなったりしますがそのタイミングがズレているということです。こういった性欲の不一致が生じることは研究からも分かっています。
妻が妊娠すると夫の性欲も変化する
女性は妊娠の初期、中期、後期でホルモンバランスや体型が変化しますから性欲が強くなったり弱くなったりします。
意外なことに男性も妻の妊娠中に性欲が変化するのです。
男性自身のホルモンが変化することや妻の外見の変化が影響していると考えられます。
妊娠中の性欲の変化は男女でサイクルが違う
妊娠中の性欲の変化は男女が同じサイクルではありません。
性欲が高いときと低いときに男女差があるのです。
108組の性欲を調査
妊娠中の性欲の男女差について調べたスペインのエステポナ病院などの研究があります。
この研究では検診にきた妊婦とそのパートナー108組に性欲を測定する質問票に回答してもらいました。
女性の性欲が最も低下するのは妊娠初期
回答を分析したところ男女ともに妊娠中は全体的に性欲が低下していることが分かりました。
そして女性の性欲が最も低下するのは妊娠初期でした。
吐き気や臭いへの嫌悪感、体調不良、眠気など影響すると考えられます。
男性は妻の妊娠後期に性欲が落ちる
男性は妊娠の初期と中期ではそれほど性欲は落ちません。しかし妊娠後期になると大きく落ちます。
テストステロンレベルの低下や妻の体型の変化の影響と考えられます。
また胎児の存在を第三者の侵入と認識してしまいセックスしたい気持ちが落ちる男性もいます。
妊娠後期にムラムラすることもあるけれど
セックスレスの相談に来る女性の中には妊娠中に性欲が増進しているという人もいます。特に妊娠後期にムラムラしはじめて自分でも驚くという人も少なくありません。
しかし夫がしたがらずにセックスレス状態になっていることで悩んでしまいます。
しかしここまで説明したように妻の妊娠中は夫の性欲も変化するのです。そしてそのサイクルは夫婦間でズレがあるということを忘れないでください。
妊娠中はセックスレスでも出産後に自然と再開したという夫婦も少なくありません。
中には産後のほうが感じやすくなったという女性もいます。妻が気持ち良さを感じていることを認識すると、夫の興奮や満足度も高まることが分かっています。
セックスとオナニーの欲求は別物
「男性の性欲は妻の妊娠後期に低下するとはいっても夫は一人で処理しているんですけど…」という女性もいるかもしれません。
実は性欲は2種類に大別することができます。セックスしたい欲求とオナニーしたい欲求です。同じようで違うものなのです。
心理学の研究でもこの2つを分けて調査することがよくあります。
妊娠中の妻と夫のオナニーしたい欲求の変化
ミシガン大学の研究者たちが初めての子供を妊娠中の29組のカップルを対象に性欲について調べた研究があります。
妊娠期間の2週間ごとに「Sexual Desire Inventory-2 (SDI-2)」という性欲に関する質問票に回答してもらいました。
この質問票は「パートナーと性行為をしたいという欲求はどのくらい強いですか」や「一人で性行為をしたいという欲求はどのくらい強いですか」といった項目によって構成されています。
これにより性欲をセックスしたい欲求とオナニーしたい欲求に分けて考えることができます。
オナニーしたい欲求は落ちない
すべての期間の回答を分析したところ面白いことが分かりました。
妻も夫も妊娠期間が進むにつれてセックスしたいという欲求が低下しましたが、オナニーしたいという欲求は変化しなかったのです。
なぜセックスとオナニーへの欲求は異なるのか?
妊娠中にセックスへの欲求は下がるのにオナニーへの欲求が変化しないのはなぜでしょうか?
この違いはテストステロンの変化によるものと推測できます。
テストステロン値の変化
実はこの実験では性欲だけではなくテストステロン値も測定していました。それによると妊娠が進むにつれ妻だけではなく夫のテストステロン値も変化していました。
ただし妻のテストステロン値は増加していましたが夫は減少していました。それでも双方に同じ性欲の変化が生じていたのです。
不思議な感じがするかもしれませんが男女がセックスに求めるものの違いを考えると一つの仮説が立てられます。
セックスに求めるものの男女差
女性はセックスに興奮だけではなく愛情やつながりを求める傾向があるといわれています。
好きな人と抱き合いたいとか親密になりたいという気持ちがセックスにつながります。
しかしテストステロンが増えると攻撃性が増しますから、こういった気持ちが弱まりセックスしたいという欲求も減ると考えられます。
それに対して男性はセックスに興奮を求めることが多いです。
テストステロンによって攻撃性が高まっているときはより興奮を求めますからセックスしたいという欲求も強くなります。反対にテストステロンが減少すればセックスへの欲求も減るということです。
もちろん男女ともに出産や子育てのことで頭がいっぱいになるのでセックスどころではなくなっていたり、妊娠中の体調を考え妻も夫も控えるようになっている可能性も考えられます。
またオナニーに対する欲求はなぜ変化しないのかということですが、明確な理由は不明ですが手っ取り早く気持ち良さを得るための手段と考えているためテストステロンの影響をあまり受けないからかもしれません。
性欲の変化は個人差あり
妊娠と性欲の関係、テストステロンと性欲の関係については今回紹介した実験と異なる結果のものもあります。
例えば性欲低下に悩む女性にテストステロンを投与することで回復したというデータも存在します。
つまり妊娠やそれに伴うテストステロンの変化がどのような影響を与えるかは人によって異なるということです。
また今回の実験からも分かる通りセックスとオナニーに対する性欲は全く同じものではありません。性欲は複雑なものです。
妊娠中にセックスしなくなったのに夫がこっそりAVを見ながら一人で処理しているからといってあなたに対する性欲が失われたわけではないのです。
なので「一人ではするくせに私とはしない…」と落ち込む必要はありません。オナニーしたい欲求は別物なのです。
参考文献
・Changes in Sexual Desire in Women and Their Partners during Pregnancy.
・Changes in prenatal testosterone and sexual desire in expectant couples.