性欲が高まる時期はいつか?週ごとに「sex」の検索回数を分析した結果

実は人間という動物の性行動にも、年間を通じた周期性があります。

たとえば、欧米諸国では出生数のピークが9月頃になる傾向がありますが、これはつまり、12月頃に多くの受胎が起きていることを意味します。

これがクリスマスなどの文化的な影響なのか?それとも気候的な影響なのかは、長年議論があります。

これまでの研究では、地球の自転や公転、気温の変化、食料の供給状況といった自然環境の影響を重視する「生物学的仮説」が主流でした。

一方で、クリスマスや年末年始、ラマダン明けのような宗教的・文化的なイベントが人々の性生活に影響を与えているという「文化的仮説」も提唱されています。

果たして、どちらがより強く影響しているのでしょう。

ネットで「sex」が最も検索される時期はいつか?

この問いに答えるために、ネットユーザーの行動を分析した、インディアナ大学などのチームによる研究があります。

この研究では、人々の性への関心が年間を通じてどのように変化するかを調べるために、「Google Trends」を使って、世界129カ国における「sex(セックス)」という単語が検索される回数を10年間にわたり週ごとに集計しました。

この検索回数の推移を、祝日(特にクリスマスとラマダン明けのイード)や季節(冬至・夏至)などのタイミングと照らし合わせて分析しました。

また、検索のピークと実際の出生データを照らし合わせることで、「検索増加=性交渉増加」と言えるかどうかも検討しました。

クリスマスが夏にくる国でも

分析の結果、アメリカなどのキリスト教国では、クリスマスの週に「sex」の検索数が大きく増えることが分かりました。

一方で、インドネシアなどのイスラム教国では、ラマダン明けの「イード・アル=フィトル」の週に検索数がピークになっていました。

また、ブラジルなどの南半球の国では、クリスマスが夏にあたりますが、「sex」の検索数のピークが同様に見られました。

つまり「気候」や「日照時間」などの生物的要因よりも、クリスマスなどの文化的要因のほうが、性への関心と強く関連しているということです。

一部の国では出生データも参照され、検索がピークを迎えた9ヶ月後に出生数が増加していることも確認されています。

これは、Google検索の増加が単なる興味ではなく、実際の性行動の増加を反映している可能性が高いことを意味します。

イベントによる感情が性欲を高める

この研究では、ツイッター(現X)のつぶやきも分析しています。

こちらでは、投稿された単語をもとに、「幸福感」「興奮度」「自己コントロール感」という3つの感情スコアを算出しました。

これらの感情スコアを週ごとに集計し、祝日の前後でどのように変化するのか、また、感情のパターンが性への関心の増減とどの程度一致しているのかを分析しました。

その結果、クリスマスやイードの週には「幸福で、穏やかで、自分がコントロールされていないような気分」が強くなっていることがわかりました。

そして、そのような感情が現れている週ほど、性への関心(Googleでのsexの検索数)が高まるという明確な関連性が見つかりました。

つまり、クリスマスなどの時期になると、幸福感などのポジティブな気持ちになりやすく、それが性欲の高まりにもつながるということです。

イベントが性欲を高める仕組み

この結果から何がいえるかというと、当たり前のことですが、人間の性欲は気分の影響を受けるということです。

クリスマスやイード・アル=フィトルといった祝祭は、休暇や家族との再会、プレゼントといった満たされた体験を伴うものであり、幸福や安心感をもたらします。

このようなポジティブな気分が、人間の性欲を高めやすいことは、既存の心理学研究でも判明しています。幸福感が高いときには性的興奮や接近欲求が強まりやすいのです。

また、これらのイベントは「家庭」や「誕生」「愛情」といった象徴的なテーマと結びついており、無意識下で生殖やパートナーとのつながりへの関心を喚起する可能性もあります。

さらに、祝祭期間中は自由時間が増えたり、外出や娯楽の機会も多くなるため、性的関心を持ちやすい状況が整いやすいともいえます。これにより、性的な行動が増加するということです。

パートナーの性欲が低いときにすべきこと

ここまでの知見を踏まえると、パートナーの性欲が低いことに悩んでいる人は、性欲そのものを直接的に高めようとするのではなく、感情や環境、関係性の質に働きかけることが有効だといえます。

性欲は個人の生理的な周期だけではなく、文化的・感情的な雰囲気にも強く影響されます。つまり、幸福で安心できるムードが、性欲を自然と引き出す前提条件ということです。

したがって、パートナーの性欲が低いと感じるときは、性的な刺激や誘い方そのものに焦点を当てる前に、まず二人の間にどんな感情の雰囲気があるかを見直すことが重要です。

そして、クリスマスや誕生日といった特別な日でなくとも、それと同じような感覚(幸福、穏やか、自己コントロール感)を持たせてあげる工夫をしましょう。

特別なことをしなくとも、感謝やねぎらいの言葉を伝えたり、一緒に笑える体験(映画、ゲーム、思い出話など)をするだけでも、性欲を高めるための心の環境を整えることにつながります。

また、ストレスや疲労、支配されている感覚(仕事、人間関係)があると、自分の人生をコントロールできているという感覚が下がり、性欲も下がりやすくなることが、研究から判明しています。

ですので、パートナーが「自分でコントロールできている」と感じられる時間や空間を持てるよう配慮することも忘れないでください。

参考文献:Wood, I.B., Varela, P.L., Bollen, J. et al. Human Sexual Cycles are Driven by Culture and Match Collective Moods.