結婚生活において、性的満足度は夫婦の幸福感や結婚の長続きに大きく影響するものです。
性的満足度を左右する要素はさまざまですが、見過ごされがちなものの一つに「性的な嫌悪感に対する感受性」があります。
これは、特定の性的行為や状況に対する嫌悪感を指し、夫婦間でこの感受性がどれくらい一致しているかが、結婚の満足度に直接影響を与えることが研究で明らかになっています。
性的な嫌悪感に対する感受性
「性的な嫌悪感に対する感受性（英：Sexual Disgust Sensitivities）」とは人が特定の性行為や性的シチュエーションに対して感じる嫌悪感や拒否反応のことです。
この感受性（又は敏感さ）は、生物学的な進化の過程で発達したものとされています。そして個人が生物学的に不適切なパートナーやリスクのある性的行動を避けるための防御反応として機能します。
例えば、近親者との性的関係、身体的に不健康な相手との性交、または感染症リスクが高い一夜限りの関係、体液に触れることなど、リスクが高いとされる状況において、人々に警戒感を抱かせ、これらの行動を避けるよう促します。
この感受性には個人差があり、ある人は特定の性的行為に対して非常に強い嫌悪感を抱く一方で、他の人は全く感じないこともあります。
「性的な嫌悪感に対する感受性」は個人の健康状態や過去の経験、所属する社会の価値観など、さまざまな要因によって決定されます。
この感受性が高い人は性的活動に対してより消極的的な態度を持つ傾向があります。
感受性が似ている夫婦は満足度が高い
「性的な嫌悪感に対する感受性」は夫婦関係にも大きく影響します。この感受性が類似している夫婦は満足度が高くなることが、フロリダ州立大学の研究者らの調査からも判明しています。
この調査では、102組の新婚カップルを対象に、2年間にわたる縦断研究を行っています。
参加者は、「性的な嫌悪感に対する感受性」と「性的満足度」、「結婚満足度」を評価するためのアンケートに回答しました。
その結果、夫婦の「性的な嫌悪感に対する感受性」が類似している場合、結婚初期から性的満足度が高く、その満足度は2年間にわたって持続することが分かりました。
また、性的満足度が高いことは、結婚満足度の高さと強く関連していることがわかりました。
一方で、「性的な嫌悪感に対する感受性」が異なる夫婦は性的満足度が低下し、その結果として結婚満足度も低くなる傾向が見られました。
なぜ性的嫌悪感は夫婦関係に影響を与えるのか？
なぜ「性的な嫌悪感に対する感受性」が異なると満足度が低下するのでしょうか？
まず「性的な嫌悪感に対する感受性」が高い人は性行為に対する動機や性欲が低くなる傾向があります。
特定の性的行為を避けたり、興味を示さないことが多く、アブノーマルなプレイに対する嫌悪感も強いです。
これに対して、「性的な嫌悪感に対する感受性」が低い人は性行為にポジティブな動機を持ち、性欲も高い傾向があります。
そして様々な行為に積極的であり、パートナーに対しても同様の期待を持ちます。
こういった性欲と期待の不一致が双方の性的満足度の低下を引き起こし、夫婦関係全体に不満をもたらす要因となるのです。
見落とし勝ちな「道徳的嫌悪感」のズレ
私が相談を受けている中でもこのような不一致による不満はよく聞きます。
例えば、旦那さんは奥さんの粘膜部分に触れたり舐めたりすることに抵抗はなく、自分もしてほしいと感じているけれど、奥さんの方は指で触れることさえ気持ち悪いといったようなケースです。
また、見落とされがちな性的な嫌悪感にの一つに「道徳的嫌悪感」があります。
例えば寝取られというプレイに対して、それを望む人もいれば、そういう話をすること自体に嫌悪感を抱く人もいます。
AVを見ることもダメという人もいます。
この「道徳的嫌悪感」のズレは気づきにくいものです。特に嫌悪感の低い方は鈍感になりがちです。
軽い気持ちで下ネタを言っていても、相手に強い嫌悪感を抱かせていることもあります。
こういったことが積み重なると夫婦間の満足度は低下する一方ですから注意しましょう。
「性的な嫌悪感に対する感受性」が高い人も低い人も、パートナーとのズレがどれくらいあるのか、一度確認してみましょう。
ズレていても、お互いの感情や欲求を理解し尊重することで、性的満足度を高めることは可能です。
参考文献：Peters SD, Meltzer AL. (2021). Newlywed Couples’ Own and Partner Sexual Disgust Sensitivities Interact to Predict Their Marital Satisfaction Through Their Sexual Satisfaction.
