セックスレスの相談を受けていると途中で夫がゲイだったと分かることがあります。
本人のカミングアウトによって分かることもあれば、妻側がこっそり確認してしまうこともあります。
実は片方が異性愛者で、もう片方が同性愛者という性的指向が違う人同士の結婚は超レアケースということはありません。
レスのカウンセリングをしている中ではそれなりの頻度で遭遇します。
性的指向が違う人同士が結婚する割合
異性愛者の妻と、同性愛者の夫の組み合わせのように、性的指向の異なる人同士の結婚を「MOM(Mixed-Orientation Marriage)」と言います。
日本語訳はないのですが「混合指向結婚」とでもいったところでしょうか。
社会学者のエドワード・ラウマン博士らの調査では米国の夫婦の100~200万組はMOMとされています。
人口比を考えると日本はその3分の1程度かもしれません。
また、アメリカの心理療法家サミュエル・ヤヌスの調査ではゲイ男性の約2割が女性と結婚するというデータもあります。
私の感覚としてもMOMは全く珍しいものではありません。(レスの悩みで相談に来る人が多いので分母に偏りはありますが…)
ゲイの男性が女性と結婚する理由
自分の夫がゲイだと知ったとき、多くの女性の頭に浮かぶ疑問が「じゃあ、なんで結婚したの?」です。
なぜ男性が好きだと分かっているのに、女性と結婚するのでしょうか?
それを調べたディーキン大学のダリル・J・ヒギンズ博士の調査があります。
この調査では以前に女性と結婚していたゲイまたはバイセクシュアルの男性にインタビューを行っています。
その結果、多くの人が挙げた理由は「子供と家庭生活を望んでいたから」「自然なことだと思ったから」の2つでした。どちらも約65%がこの理由に同意しています。
また半数以上が「結婚することでゲイではなくなるかもしれない」と考えていたことも分かりました。
それと結婚するまで自分の性的指向を認識していなかった男性も半数いました。
夫がゲイだと知ったときどうするか?
夫がゲイだと知ったとき、どのような身の振り方をすれば良いのでしょうか?
あくまでも私の個人的な意見なのでこれが絶対に正解ということではありませんが、夫からカミングアウトされたときにショックが大きかったなら離婚したほうが良いと思います。
綺麗事なしで言うならこれが私の答えです。
夫がゲイと知っても、何とも思わなかったとか、子育ても一段落して今さら生活スタイルを変えなくても良い、むしろセックスしなくて済むといった感覚を持てるのなら、一緒にいても良いでしょう。
もしくは夫の性的指向がどうであれ愛する気持ちは絶対に変わらないという覚悟があるなら大丈夫かもしれません。(この情熱は何年かすると冷めることも多いですが)
しかし、不安や怒り、迷いが生じている場合には結婚生活を継続するほどに心が病んでいくことが多いです。
MOM(性的指向の異なる人同士の結婚)の離婚率は8割以上
結婚後に配偶者が異性愛者ではないと知ったとき、以下の3つの選択肢が考えられます。
- すぐに離婚する
- しばらくして離婚する
- 離婚しない
同性愛に関する研究も多いアミティ・バクストン博士によれば、上記のそれぞれが選択される割合はほぼ同じだそうです。
ただし、離婚しないと決めた夫婦も約半分は3年以内に離婚しています。
つまりMOM(性的指向の異なる人同士の結婚)の離婚率は8割以上ということです。
MOMの離婚についての研究は少ないのでサンプルとしての正確性は担保できませんが、当カウンセリングルームの相談者を見ても、この割合には納得感があります。
実感としてはもっと高い気もします。
最もダメージが大きい離婚パターン
あくまで私のところに相談に来ている女性に限った話ですが、精神的に最もダメージが大きいのは一度は離婚しないと決めた後で離婚したパターンです。
夫からゲイであると打ち明けられとき、一緒にいるという選択をすることで、その件に関してのクレームを言うことはできなくなります。
最初のうちは我慢できていても、しばらくすると性的指向を隠して結婚した夫への怒りや、恋愛対象になっていない惨めさ、カモフラージュのために利用されたのではという猜疑心が出てくることがあります。
そこで情緒不安定になっても、それを直接相手にぶつけることはできないのです。ぶつけることが出来たとしても、相手も苦しんでいることを知っているので、強い罪悪感を覚えます。
また今までは夫から「男友達と遊びに行く」と言われても何とも思わなかったのに、カミングアウト後は全て浮気に思えてしまうことがあります。
女性との浮気であれば夫に怒りをぶつけられるのに、男性との浮気ではそれもできないという人も多いです。
このような状態で過ごす時間が長くなるほどにストレスや抑うつ気分が増えていきます。
そして離婚をするのですが、そのときにはもう心がボロボロだったり、男性不信になっていることもあります。
LGBTQを理解しているつもりでも、それが自分ごととなったら感覚は異なるものなのです。
夫といることで、心が豊かになっていきそうか、消耗していきそうかをしっかりと見極める必要があります。
【参考文献】
・The Social Organization of Sexuality, Sexual Practices in the United States.
・Janus, S. S., & Janus, C. L. (1993). The Janus report on sexual behavior.
・Daryl J. Higgins PhD (2002) Gay Men from Heterosexual Marriages, Journal of Homosexuality, 42:4, 15-34.
・Amity Pierce Buxton (2004) Works in Progress, Journal of Bisexuality, 4:1-2, 57-82.