避妊方法には様々なものがありますが、最も多く用いられているのはコンドームです。
このコンドームの妊娠率(避妊失敗率)について、「一般的な使用法で15%、完璧な使用法で2%」といわれることが多いです。
これは100人の女性がその避妊方法を行った場合に1年間で何人妊娠するか?を表したパール指数と呼ばれる数字に基づくものとされています。
しかし、この数字はずいぶん高いと思いませんか?
コンドームの一般的な使い方をしていたら1年間で10人中1人以上が妊娠するのでしょうか?
実はこの数字は誤解されて広まっているのです。
コンドームの妊娠率(避妊失敗率)のエビデンス
そもそも、コンドーム使用時の妊娠率は15%(2%)というエビデンス(科学的根拠)は何でしょうか?
多くのネット記事やYouTube動画でこの数字に言及していますが、出典は示されていません。
なので探してみたところ、プリンストン大学人口研究所のジェームス・トゥルッセル博士の『Contraceptive failure in the United States.(米国における避妊の失敗)』という研究が見つかりました。
おそらくこれが元ではないかと思います。現時点で、他の論文に2300回以上も引用されていますので、避妊に関しては有名な研究といえます。
どのような研究かというと、過去に発表された避妊の失敗に関する研究データをまとめてレビューしたものです。
避妊法ごとの妊娠率のデータ
この研究では代表的な避妊方法について、「一般的な使用法」と「完璧な使用法」の妊娠率(避妊の失敗率)のデータを算出しています。一部を抜粋すると以下の通りとなっています。
※1個目の数字が「一般的な使用法」で括弧内が「完璧な使用法」の妊娠率です。
- 男性用コンドーム 15%(2%)
- 女性用コンドーム 21%(5%)
- 経口避妊薬 8%(0.3%)
- 膣外射精 27%(4%)
上記の通り、男性用のコンドームの一般的な使用法の妊娠率は15%で、完璧な使用法の妊娠率は2%となっています。
ネット上に広がっている数字と同じですから、これが元の研究といえそうです。
コンドームの避妊率は85%(又は98%)と言われることもありますが、それもこの数字を逆の視点から見たものでしょう。
「一般的な使用法」が全く「一般的」でなかった
それにしても、「一般的な使用法」と「完璧な使用法」でここまで大きな差が出るのは不思議な気がします。
なぜこのような差が出るのでしょうか?
実は私たちは言葉の意味を勘違いしているのです。
多くの人はこの2つの言葉の意味の違いを次のように理解していると思います。
- 一般的な使用法:厳密に正しい使い方とは限らないが毎回コンドームを使用する
- 完璧な使用法:説明書通り正しい手順に基づき毎回コンドームを使用する
認識に多少の差はあれ、多くの人が「一般的な使用法」であっても、セックスの度に毎回コンドームを使用していると思うでしょう。
しかし、今回紹介した研究における言葉の定義は以下の通りです。
- 一般的な使用法:避妊法としてコンドームを使用するが、不適切に使用したり、使わないこともある
- 完璧な使用法:使用規則に厳密に従い毎回コンドームを使用する
つまり、「一般的な使用法」で避妊している人の中には、時々コンドームを使わずに生で挿入する人達も含まれているということです。
論文中にも「『一般的な使用法』にはコンドームを時々しか使用しない場合も含むので注意が必要」という旨が記載されています。
完璧な使用法の妊娠率2%も高い気がするが…
以上のようにこの研究におけるコンドームの「一般的な使用法」というのは、使わないことも含むのです。
しかし、「一般的な使用法における妊娠率は15%」という言葉だけが広まったため、多くの人が勘違いしてしまったということです。
ちなみに「完璧な使用法」における妊娠率2%というのも個人的には少し高いような気がします。
相談に来る人の話を聞いていても、毎回、正しくコンドームを使用しているけれど妊娠しましたという人の割合はもっと低いように思います。
正しく装着して避妊に失敗したパターンとしては、ゴムが破けてしまったとか、途中でズレてしまい精子が漏れてしまったなどのトラブルが起きた場合がほとんどです。
おそらく「完璧な使用法」で避妊しているという人の中には、自分がそう思い込んでいるだけで、間違った使い方をしている人もけっこう含まれているのではないでしょうか?
【追記】
コンドームの妊娠率が18%(逆の見方では避妊率92%)と言われることもありますが、この数字は今回紹介した研究を行ったジェームス・トゥルッセル博士が数年後に再度行った研究の数値が元になっていると思われます。こちらの研究では男性用コンドームの妊娠率が「一般的な使用法」で18%となっており、「完璧な使用法」で2%となっています。
参考文献:James Trussell. (2004). Contraceptive failure in the United States.