産後の性行為で重要なのは「ダイアディック・コーピング」だった

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出産は喜びと同時にストレスをもたらすこともあります。

赤ちゃん中心の生活になることで、生活リズムが変化し睡眠不足や疲労が蓄積し、性生活にも悪影響が出ます。

妊娠中にレスになり産後も性行為を再開することなく今日にいたるという夫婦も珍しくありません。

産後に性欲や性的満足度が低下するのは特別なことではなく、多くの夫婦が経験することなのです。

ここで重要なのは「ストレスの存在」そのものではなく、それにどう向き合うかです。

ストレスに対する双方の働き掛けが夫婦間の性欲や性的満足度を左右することが複数の研究で分かっています。

そこで、産後に性行為を再開したいと考えている夫婦にぜひ意識してほしいのが肯定的な「ダイアディック・コーピング」です。

ダイアディック・コーピングとは

ダイアディック・コーピング(dyadic coping)とは、夫婦や恋人同士がともに行うストレスへの対処法です。

一般的な「ストレス・コーピング」では個人としてどう処理するかと考えますが、ダイアディック・コーピングはその視点を「二人のやり取り」に広げて考えます。

ダイアディック・コーピングには肯定的なものと否定的なものがあります。

肯定的なものとは、二人が力を合わせて問題解決や感情の支え合うものです。

たとえば、夜中の授乳やおむつ替えを交代制にしたり、「今日は自分がやるから休んで」と相手に休息を与えることなどが当てはまります。これによって、お互いに「自分は一人ではない」という安心感が得られ、関係の満足度が高まります。性欲にもプラスの影響を与えます。

否定的なダイアディック・コーピングというものもあります。これは、相手のストレスに対して皮肉を言ったり、無視をしたりすることです。「波風を立てないように関わらないでおこう」と表面的な対応しかしないこともこちらに含まれます。

この場合、相手は理解されていないと感じ、関係に不満がたまりやすくなります。この否定的なダイアディック・コーピングが性生活や関係満足度を低下させることもあります。

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夫婦間の性欲と性的満足度の変化の記録

ダイアディック・コーピングが夫婦間の性欲にどう影響するのか確かめた、カナダのダルハウジー大学などのチームによる研究があります。

この研究では、初めての子どもを出産してから3~4ヵ月の間にある120組のカップルに、21日に渡って日々の記録を取ってもらいました。

記録した内容は、その日のストレス対処の仕方、自分や相手の行動、さらに性欲や性生活満足度、関係満足度などです。

特に注目したのがさきほど説明した「ダイアディック・コーピング」です。

ストレスが発生したときに、夫婦がともに支えながら前向きに対処したのか、それとも無視したり否定的な態度で対処したのかということを詳しく分析しました。

肯定的なダイアディック・コーピングが性欲を高める

分析の結果、肯定的なダイアディック・コーピングを多く行った日は、男女ともに性欲が高まり、性生活や関係への満足度も上がることがわかりました。

つまり、一緒にストレスに立ち向かう姿勢が、夫婦双方の心理的・身体的な親密さを育んでいたのです。

特に女性がそのような態度を見せた日には、男性の性欲にプラスの影響が出やすいことが分かりました。

一方で、否定的なダイアディック・コーピングが目立った日には満足度が下がる傾向が確認されました。

特に男性がそうした行動を取った日は、女性の性欲や関係満足度を大きく下げることが明らかになりました。

また、女性が否定的なダイアディック・コーピングを減らすと、自分自身の性欲や性生活満足度が高まるだけでなく、男性の関係満足度も高くなるという結果も出ています。

親密さを求める気持ちがが性欲につながる

ダイアディック・コーピングが産後の性欲や満足度に影響を与える理由は、夫婦間での「ストレスの扱い方」がそのまま心理的な距離感や安心感につながりやすいからです。

まず、肯定的なダイアディック・コーピングが多いと、相手に理解されている、支えられているという感覚が強まります。人はこのような安心感や信頼感を得ると心の余裕が生まれ、親密さを求める気持ちが高まります。

特に産後は疲労や不安が重なりやすいため、パートナーが「一緒に頑張ろう」という姿勢を示すことで、孤独感や負担感が和らぎ、結果として性欲や性生活の満足度が上がるのです。

反対に、否定的なダイアディック・コーピングが増えると「わかってもらえない」「大事にされていない」という感覚が強まり、心理的な距離が広がります。

ストレスの多い産後に皮肉や無関心で対応されると、関係に不満が募り、相手に親密さを求めたい気持ちが自然と弱まります。そして性欲や関係満足度が低下しやすくなるのです。

女性ほどダイアディック・コーピングの影響を受けやすい

今回の研究では女性ほどダイアディック・コーピングの影響を受けやすいことも分かっています。

この理由は出産後の女性が心身ともに大きな変化を経験しているためと考えられます。出産後はホルモンバランスの急激な変化に加え、授乳や睡眠不足による身体的疲労、育児や家事の負担増加といった要因が重なりやすくなります。

また、自分の体型や役割の変化から自己イメージが揺らぎ、不安や孤独感を抱きやすい時期でもあります。

こうした状況にあるため、パートナーからの支えや共感に対して非常に敏感になり、小さな労いの言葉や些細なサポートであっても強い安心感につながり、それが親密さへの欲求や性欲につながりやすいのです。

逆に皮肉や無関心といった否定的な対応をされると、失望感や疎外感が大きくなりやすいともいえます。

産後の性行為をより良いものにする対策

以上のことから産後の性行為をより良いものとするために必要なことは「協力的してストレスに対処すること」と「否定的な対応を減らすこと」の二点に集約されます。

まず大切なのは、日常の小さな場面で「一緒に取り組む姿勢」を持つことです。

例えば、赤ちゃんの夜泣きや家事の負担に直面したときに、率先して行動するだけでなく、「一緒にどう分担するか考えよう」と声をかけることが効果的です。こうした姿勢が相手に「支えられている」という安心感を与え、夫婦間の親密さを高めます。

また、相手の話を遮らずに最後まで聞くことも重要です。言葉を受け止めてもらえたと感じるだけで、気持ちは大きく和らぎます。

感謝や労いを言葉にすることも大きな力となります。「ありがとう」「助かったよ」といった一言は、相手の存在価値を再確認させ、関係満足度を高めます。小さな習慣でも、積み重ねることで性生活や絆の回復につながります。

一方で、避けたいのは「否定的な対応」です。

疲れているときに皮肉を言ったり、無関心な態度を取ったりすると、相手は「理解されていない」「大事にされていない」と感じやすくなります。

これが積み重なると性欲や親密さが大きく損なわれます。感情が高ぶってしまったときは、すぐに言い返すのではなく「少し落ち着いてから話そう」と距離を置くことが効果的です。

さらに、休息を意識的に取り入れることも欠かせません。

産後の生活は疲労の連続です。睡眠や休憩が不足すると、協力的に振る舞う余裕がなくなり、否定的な反応が出やすくなります。休む時間を作ることも、実践的なストレス対処法の一つなのです。

このように、小さな工夫を積み重ねることで、夫婦関係はより良好となり、性生活や関係満足度の向上にもつながります。

☑︎産後のセックスレスの原因は赤ちゃんの様子を見ること?

参考文献:Schwenck, G. C., Dawson, S. J., Allsop, D. B., & Rosen, N. O. (2022). Daily dyadic coping: Associations with postpartum sexual desire and sexual and relationship satisfaction. Journal of Social and Personal Relationships, 39(12), 3706-3727.