カップルの性欲は常に一致するわけではありません。
タイミングが合うときは3分の1程度しかないという研究もあります。
相手が誘ってきても、あなたがしたい気分でないこともありますし、その逆のパターンもあります。
セックスに関する利害の衝突はカップルにとって解決するのが難しい問題の一つです。
大抵は相手を傷つけないために嫌々に応じるか、自分を傷つけないために断るかという選択になるかと思います。
前者は自分がストレスを抱えることにもなりますし、後者は相手の関係満足度が低下する可能性があります。
結局のところ、どちらが二人の関係にとって悪影響が少ないのでしょうか?
嫌々セックスに応じても相手の満足度は高い
相手を傷つけないため、不機嫌にしないため、という消極的なものを「回避型の動機」と言います。(これに対し相手を喜ばせたいという積極的なものは「接近型の動機」と言います)
回避型の動機によってセックスをすると、精神的な負担が掛かります。
それだけではなく、時間の経過とともに性欲が落ちやすくなることも分かっています。それがやがてレスの要因となることもあります。(参考:セックスレスにならない夫婦の思考パターンが判明)
とはいえ、相手の立場からすると、セックスに応じてもらえたことでポジティブな影響が出ます。
たとえ回避型の動機によってであっても、セックスに応じてもらえた翌日は満足度が高まることも分かっています。
一方で、セックスを断る場合でも、優しさをもって断ることで、相手のメンタルへのダメージが低減され、関係の質は低下しにくいことも分かっています。
では、嫌々でも応じるのと、優しく断るのでは、どちらが良いのでしょう?
セックスの動機と断り方の調査
トロント大学の研究チームが、2年以上同棲している98組のカップルを対象に行った調査があります。
この調査では4週間に渡り、カップルがどのような動機でセックスをしたのか調べています。
「相手に快楽を与えたい」「親密さを促進したい」といった接近型の動機なのか、「相手を怒らせたくない」「嫌われたくない」といった回避型の動機なのかということを記録させたのです。
また、セックスを断ったとき、どのような断り方をしたかも記録させました。
愛していることを伝えるなど配慮した断り方をしたのか、イライラした態度や嫌悪感を見せるような冷たい断り方をしたのかということです。
そして、それぞれの関係満足度と性的満足度も確かめました。
本人も相手もセックスした方が性的満足度は高い
上記の記録を分析したところ、本人が配慮して断ったときと、嫌々セックスをしたときの関係満足度はそれほど差がないことが分かりました。
しかし、性的満足度に関しては、配慮して断ったときよりも、嫌々でもセックスしたときのほうが高くなることが分かりました。
そして、これは相手にも同じ傾向が見られました。
配慮した断り方をされたときと、嫌々セックスに応じてもらえたときを比べると、後者の方が性的満足度は高かったということです。
気分が乗らない時でも応じた方が良いのか?
この結果を見ると、気分が乗らない時でも誘われたらセックスに応じたほうが、良さそうに見えます。
しかし、必ずしもそうではありません。
実は今回の研究チームは事前に別の調査を行っています。
それはセックスに関するシナリオを読ませて、シチュエーションを想像させ、満足度を答えてもらうというものです。
シナリオは、パートナーがセックスにどのような動機で応じるかや、どのように断るかといった内容が書かれていました。
それを読んでどのように感じるか回答してもらうのです。
こちらの結果は、関係満足度も性的満足度も、配慮した断られ方をしたときの方が、嫌々に応じられたときよりも高くなることが分かっています。
嫌々していると伝わっているときは悪影響が出る
このような差が出る要因の一つは、嫌々応じていることが伝わっているかどうかにあると考えられます。
先ほどのカップルの活動を記録した調査では、相手が嫌々に応じているかどうかは分かりません。
しかし、シナリオを読む調査では、それが明言されているので認識できます。
つまり、セックスに応じてもらえても「パートナーは仕方なくセックスしてくれている」と認識すると、満足度は下がるということです。
この場合は配慮して断られたほうがダメージは少ないということになります。
「仕方ないからしてあげる」というよりも、「あなたのことは大切だけど今日はそういう気分になれないの」と断ったほうが二人の関係に悪影響を及ぼしにくいということです。
セックスレスのイライラよりも、したくないのにするイライラのほうが大きいことも分かっていますから、自分のためにも配慮しながら断ることは大切です。
上手な断り方については「エッチの断り方!相手を傷つけないために何を伝えるべきか?」を参考にしてください。
参考文献:Kim, J., Muise, A., & Impett, E. A. (2018). The relationship implications of rejecting a partner for sex kindly versus having sex reluctantly. Journal of Social and Personal Relationships, 35(4), 485-508.