排卵日はエストロゲンなどのホルモンの分泌が増えるので、女性の性欲が強くなるといわれることが多いです。
しかし、排卵日よりも生理(月経)前後のほうが性欲が強いという女性もいます。
この理由として、妊娠したくない人は排卵日以外のほうが安心してセックスできるからなどと言われることがあります。
非常に納得感のある説明ですし、メンタルが性欲に影響することもありますから、その可能性もあるかもしれませんが、別の理由も考えられます。
どういう関係を求めるかによっていつ性欲が強くなるか変わる可能性があるのです。
短期の関係を求める女性は排卵日に性欲が強くなり、長期の関係を求める女性は月経中(と排卵日の両方)に性欲が強くなるのです。
「早い生活史戦略」と「遅い生活史戦略」
生まれてから成長し、子孫を残し、死んでいくまでの過程を「生活史」と呼びます。
この過程に対して生物は様々な戦略を取っています。
それらは「早い生活史戦略」と「遅い生活史戦略」と表現されたりします。
「早い生活史戦略」とは将来の環境変化は見通せないという視点に立ち、今できることに集中するというものです。
「遅い生活史戦略」は将来を予測できるという視点に立ち、長い目で計画を実行していくものです。
そしてこの戦略の違いが性行動にも現れます。というよりも生活史戦略といった場合ほとんどが子孫繁栄についてのことを意味しています。
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多く産むか、少なく産んで手厚く保護するか
「早い生活史戦略」では多様な子孫を多く残そうとします。
気候変動や飢饉によってどう環境が変化するか分からないため、バラエティに富んだ多くの子孫を残しておけば、そのうちの何人かは生き延びるだろうと考えるのです。
分かりやすくいえば、複数の異性と短期の関係を結んでセックスしようとするということです。
「遅い生活史戦略」では予測できる範囲でしか環境は変化しないと考え、少ない子孫を手厚く保護しようと考えるのです。
決まった異性と長い関係を結んでセックスしようとするということです。
排卵日に性欲が強くなる女性
このような違いが排卵日の女性の性欲の違いを生み出す可能性があります。
「早い生活史戦略」を採用する女性は排卵日に性欲が強くなります。
なぜなら、多くの子孫を残すためには効率的に性交する必要があるからです。
そのため確実に妊娠できる日だけムラムラするということです。
「遅い生活史戦略」を採用する女性は排卵日だけではなく、他の日にも性欲が強くなります。
なぜなら自分を妊娠させた男性が逃げないように、妊娠目的以外でもセックスをする必要があるからです。
生理周期と性欲を調べた研究
生活史戦略の違いが女性の性欲が強くなるタイミングに影響を与えていることは、香港理工大学のホイ・ジン・ルーの調査でも明らかになっています。
この調査では「子供のころは将来ではなく現在に焦点を当てる人間だった」などの項目からなる質問票によって、どちらの生活史戦略を取っているかを確かめました。
また、日々の性欲(性的な考えがあるか、性的意図はあるか)などを記録し、生理周期と統合しました。
その結果、早い生活史戦略を持つ女性は排卵日付近が最も性欲が強くなることが分かりました。
そして、遅い生活史戦略を持つ女性は、排卵日付近と月経付近で性欲が強くなることが分かりました。
もしあなたが排卵日でもムラムラしないというなら、生理前後(=月経)の方が性欲が強くなるタイプなので、そういう印象を持っているのかもしれません。
ちなみにプレッシャーや危機感を持ちやすい生活を送っている人は早い生活史戦略を持ちやすいといわれています。
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色気が増すのは排卵期
少し話が変わりますが、女性は生理周期によって性欲だけではなく、恋愛戦略における行動も変わることが複数の実験から判明しています。
妊娠が可能となる排卵期の女性は異性を惹きつけるための戦略を無意識に選択するのです。
良く知られているところでは赤色を身に着けるというのがあります。
これは哺乳類にとって発情のサインが赤色であるためと考えられています。ニホンザルなどは繁殖期になると顔や尻が赤くなります。
人間も排卵期になると肉眼では判断できないレベルではありますが肌が微妙に赤みを帯びるといわれています。
それを強調するため無意識に赤を身に着けるのではないか?ということです。
そして実際に男性も赤い服や赤い口紅をつけた女性を色気があると評価することも分かっています。
また排卵期の女性の顔は魅力的に変化するという研究もあります。
さらに仕草も変わるとされています。そしてその仕草も男性から色気があると評価されやすいのです。
歩き方と排卵期の関係を調べる実験
排卵期の女性が変えている仕草の一つに歩き方があります。
意識していなくても色気のある歩き方に変わっているのです。
イケメンの前を歩かせる
恋愛関連の面白い研究で有名なニコラス・ゲーガン博士の実験があります。
別の目的の実験で呼んだ女性をイケメンと同じ待合室で待たせます。このイケメンは実験協力者です。
それから実験を行う部屋まで18mほどの通路を歩かせるのですが、このときにイケメンは後ろを歩きこっそりと女性の姿を隠しカメラで撮影します。
その後で女性の唾液を採取し黄体形成ホルモンの量を計測します。これによりその女性が排卵期かどうか判断できます。
排卵期の歩き方は色気があると思われる
実験の結果、排卵期の女性はそうでない女性と比べて歩くスピードが遅くなるということが分かりました。
さらに撮影された女性の歩く姿を別の男性に評価させたところ、排卵期の女性のほうが色気があると評価されました。
ちなみになぜ待合室から実験室まで一緒に歩いた男性をイケメンにする必要があったのかというと、魅力のない相手の前では女性の中で相手を惹きつけようというモチベーションが起こらない可能性があるからです。
実際に他の実験では排卵期でも魅力を感じる男性の前でなければ女性の態度は変わらないという結果のものもあります。
男性の歩き方が遅くなるときもある
歩き方に限らず何気なく行っている仕草が色気のあるものに変化している可能性は高いです。男性を誘うときはこのタイミングが良いのかもしれません。
ちなみに男性の歩きが遅くなるときもあります。
それはどんな時かというと魅力的な女性と一緒に歩いているときです。7%ほど速度が落ちるという研究があります。
アピールのために少しでも長く一緒にいたいという気持ちが行動に現れるようです。
余談ですが排卵期ではなくともヒールを履いているときは歩き方が若々しく魅力的になることが分かっています。
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<参考文献>
・Lu HJ. Sexual Desire of Women With Fast and Slow Life History Throughout the Ovulatory Cycle. Evol Psychol. 2023.
・Nicolas Gueguen. (2011). Gait and menstrual cycle: Ovulating women use sexier gaits and walk slowly ahead of men.