異なる環境で育った他人同士が一つ屋根の下で暮らせば多少の衝突やトラブルが生じるのは自然なことです。
些細な言い合いが生じたからと夫婦関係がうまくいっていないと判断するのは早計でしょう。
話し合いや過ごす時間の増加によって解消されることもあります。
しかし、結婚してから毎日のように夫婦喧嘩ばかり、常に相手の顔色を窺ってしまう、離婚されるのではないかと不安が募るといった場合は根深い問題を抱えているかもしれません。
夫婦関係をうまくいかせない原因の一つとして、子供時代の虐待が挙げられます。
それによって、コミュニケーションとストレスの問題が生じているのです。
仮にあなたにそのような問題がなかったとしても、パートナーにある可能性もあります。
コミュニケーションの型と虐待の関係
他者(特に親密な相手)とどのように関係を結ぶかという型を「愛着スタイル」と呼びます。
愛着スタイルは主に以下の3つのスタイルに分類できます。
- 安定型:親密な関係を幸福、友好的、信頼と捉える
- 不安型:見捨てられることを恐れ執着する。依存的
- 回避型:親密になるとへの不快感。自己を開示しない
夫婦のどちらか一方でも不安型や回避型の愛着スタイルをもっていると、関係がうまくいかないことがあります。
そしてこの愛着スタイルの土台をつくるのは子供時代の家庭環境です。
親との間で安定した愛着が形成されれば、それを他の人にも適用しますから、人間関係はうまくいきやすいです。
しかし虐待などをされた場合には不安型や回避型の愛着スタイルが形成されますから、他者とうまくコミュニケーションできないことがあるのです。
それが結婚生活にも影響するということです。
ストレスの感じやすさと虐待の関係
夫婦関係がうまくいかなくなる原因のもう一つは、ストレスです。
人間というのはストレスを感じているときに、さらにストレスを増やすような行動を取ってしまうことがあるのです。
例えばイライラしていると相手に八つ当たりしてしまうことがあります。すると相手からも攻撃的な反応が返ってきますから、余計にイライラしてストレスが強化されるということです。
それがさらに悪化して抑うつ状態になると、相手の献身的な態度は過小評価し、否定的な態度は過大評価するようになりますから、どんどん関係は悪化します。
こうした傾向も子供時代の虐待と相関していることが研究によって判明しています。
親との関係において社会的スキルを学ぶ機会がなかったことが要因と考えられます。
子供時代の虐待は物理的に脳を変形させる
ここまで説明したことはヘブライ大学のシリーン・ソーカー博士が行った調査でも判明しています。
この調査では20歳から60歳までの男女約600人を対象に子供時代の虐待の有無と、愛着スタイル、ストレス、結婚生活の満足度について聞き取りを行いました。
回答を分析したところ、子供時代の虐待が不安定な愛着スタイルにつながり、それによって将来の結婚満足度を低下させていることが分かっています。さらにストレスを悪い方へと発展させがちなことも分かっています。
子供時代の虐待はトラウマとして長期的な悪影響を及ぼします。
物理的に脳の形を変化させ、それによって成人後の感情処理や認知機能に影響を及ぼすのです。
夫婦関係がうまくいってない人はどう考えれば良いか?
パートナーのちょっとした言動に傷ついたり、イライラしたり、見捨てられるのでは?と不安になるのは、子供時代の虐待によって、認知の仕方が歪んでしまっていることに原因があるかもしれないのです。
とはいえ脳の神経細胞には可塑性がありますから新たなネットワークを形成することが可能です。
つまり、変わろうと思えば変われるということです。
もし、あなたの夫婦関係がうまくいっておらず、それが子供時代の虐待にあるのなら、認知を変えましょう。
まずは、「物事の捉え方が偏っていないかな?」と考える習慣をつけることが効果的です。
そして、他の考え方はできないか?と色々な思考を巡らせるのです。本などを読んでヒントを得るのも効果的です。
それだけでも脳は新しいネットワークを使い始めるのです。
参考文献:Sokar, S. (2024). Childhood maltreatment and the quality of marital relationships: Examining mediating pathways and gender differences.