「やさしいセックス」についてのお話をしましょう。
ここでいう「やさしい」には2つの意味があります。
相手の気持ちに寄り添うという意味での「優しい」と、難易度が低いという意味での「易しい」です。
この2つを同時に満たすことができるのが「Good-Enough Sex」です。日本語にするなら「十分なセックス」といったところです。
これを取り入れることでカップル間の性的満足度が高まるだけではなく、レスの予防にもなります。
またセックスレス解消のためのステップにも活用することができます。
心に寄り添う「優しいセックス」
「Good-Enough Sex」の前にそれぞれの「やさしい」について説明します。
まずは、心に寄り添うという意味での「優しいセックス」です。
これは相手の嫌がることをしないこと、望むことをして快楽へと導くことなどを意味します。
愛情のこもったセリフをささやくことも含みます。
こういった優しさがないと、パートナーを傷つけてしまうことは多くの人が理解していると思います。
しかし、セックスにおいて傷つくパターンはこれだけではありません。
例えば、あなたが楽しそうに見えなければパートナーは「自分に魅力がないからだろうか」と考えてしまうこともあります。
また、あなたの性的な要求が多すぎる場合に「自分は満足させてあげられていない」と申し訳なく思ってしまうこともあります。
こういった思考は自己肯定感を低下させますから、より深い傷となって残ることもあります。
つまり、本当に優しいセックスとは、自分も満足し、相手も満足していると認識できるセックスです。
☑︎セックス中に言うべきセリフ!女には「キレイ」と伝え、男には「気持ちいい」と伝えろ
体の負担が少ない「易しいセックス」
前戯にたっぷりと時間をかけ、挿入して快楽を味わったら二人が同時にオーガズムを迎える。
こういったセックスが理想的なものと多くの人が思ってるでしょう。
しかし、それが出来ているカップルは少数派です。出来ているカップルでも毎回のようにはいきません。
それでも、理想的なセックスを目指さなければならないというプレッシャーを多くの人が無意識に感じています。
こういった完璧なプレイを志向することで、行為に対して「肉体的に疲れるもの」という認識を持ってしまします。
「セックスはスポーツだとどの種目と同じ運動強度なのか」で説明しましたが、1回のセックスで約100kcal消費します。テニスを14分するのと同じレベルの消費量です。
長く一緒にいるほどに興奮も失われますから、疲れると分かっていることにはモチベーションも上がりにくくなるでしょう。
それがセックスレスの原因となってしまうこともあります。
一方で、抱き合うだけでも素晴らしい性的コミュニケーションであるという認識を持っていれば、肉体的にも負担は小さくなります。
つまり、易しいセックスとはそのときの体のコンディションに合わせた負担の少ないセックスです。
☑︎挿入しないセックスを取り入れた方がオーガズムまで達する機会も増える
「Good-Enough Sex」とは
「やさしいセックス」とは心理的にも肉体的にも負担が少ないセックスです。そしてそれが、心と体の喜びにつながるセックスです。
それを満たすのが冒頭の「Good-Enough Sex」なのです。
「Good-Enough Sex」とは柔軟さを取り入れ、喜びに焦点を当てたセックスです。プレイというよりも、性的な態度といえるかもしれません。
まず、前提として「カップルのセクシャリティは常に変化するもの」という現実的な考えを持つことが大切です。
つまり、常にオーガズムが必要なわけではなく、抱き合ったり、くっついているだけでも喜びを感じられると知る必要があります。
最初からそのような感覚になることは難しいですが、二人で取り組むことによって、少しずつ変化していきます。
セックスの喜びに焦点を当てる
セックスの喜びに焦点を当てるとは、肉体的な快楽を求めるということだけではありません。
精神面についての喜びも大切なことです。
そのためにまず、性的経験が快楽、エロティシズム、満足感を伴うポジティブな側面であるという認識を持つことが大切です。
実際に二人の関係を親密にし、健康にも良い影響を与えてくれるものです。
もちろん、ここでいう性的経験とは挿入とオーガズムのみを意味するのではありません。
ちょっとしたスキンシップも含みます。服の上からであっても二人の体が触れ合うことは喜びに満ちた性的経験であるという認識を持ちましょう。
※しかしレス状態の時は気安く触れさせてはいけません。(参考:セックスレスだけどスキンシップはある状態が危険な理由)
性的コミュニケーションを生活に統合する
「Good-Enough Sex」の実践とは、キスやハグ、ボディタッチも全てが性的経験と捉えることです。
より良い性的経験のためには、相手の欲求に応えること、没頭すること、多様性のある試みなどが役立ちます。
これらはベッドの上だけで実践するものではありません。
日常の中で、愛情表現として手を握ったり、背中を撫でたり、する中で実践することも可能です。行ってらっしゃいのキスをするときでも良いのです。
これらの行為を性的経験にするためには、ただ触れるだけではなく、そこに注意を向けて感情を込めることが大切です。
このように「Good-Enough Sex」は性的コミュニケーションを二人の生活の中に統合することともいえます。
性的欲望を捨てることではない
「Good-Enough Sex」は性的欲望を捨てるということではありません。
むしろ欲望は大切な要素の一つです。それによって双方がセックスへの期待を膨らませることができるのです。
なので自分と相手の中にある欲望を否定してはいけません。
ただし、仕事のストレスやライフスタイルの変化、加齢によって、それらの欲望が変化するものであるという認識を持つことが必要です。
欲望を持ちつつ、その変化を柔軟に受け入れるのです。
激しいプレイをする日もあれば、のんびりとしたプレイをする日もあって良いということです。
海外のセックスセラピーでは当たり前の概念
説明が複雑になってしまったかも知れませんが、分かりやすくいうなら、「Good-Enough Sex」は挿入をはじめとした裸体での接触を伴わない行為であっても、性的経験と捉え、そこに喜びを見出すことです。
「Good-Enough Sex」を取り入れることは、カップル間の性的な炎を燃やし続けることに寄与します。
それによって、挿入とオーガズムを伴うセックスへの心理的ハードルも高くなり過ぎずに済みます。
また、それぞれが持つ「セックスはこうでなければならない」という固定観念を捨てることで、プレッシャーや不安を減らすこともできるのです。
二人にとって「やさしいセックス」といえます。
挿入や裸になることにこだわらないというのは、海外のセックスセラピーでは当たり前のように取り入れられている概念です。
当方にセックスレスの相談に来られる方も「それくらいだったらすぐ出来る」と実践し、そこからレスの解消に至るパターンも珍しくありません。(もちろんその前にすべきこともあります)
いつまでも素晴らしい性的経験を継続するためにも、ぜひ「Good-Enough Sex」を実践してみてください。
スローセックスは「やさしいセックス」ではない
やさしいセックスというと、スローセックスを思い浮かべる人もいるかもしれません。
確かにオーガズムにこだわらないことや、マッサージをすることはやさしいセックスです。
しかし、あなたがたカップルがセックスレス状態だというなら注意が必要です。
当方でもスローセックスを実践した、もしくはしようとしたことのある方がいらっしゃることもあります。
しかし逆効果になってしまったという方も多いです。
というのも相手の体に優しくゆっくりとマッサージをするというのは、けっこうな重労働です。
そのため、レス状態のカップルにとっては余計に面倒な作業という認識が生まれてしまうことがあるのです。
もちろん、二人で様々な性的経験を実践することで楽しんでいるというカップルではれば、問題はありません。
しかし、レスのカップルにとっては「やさしいセックス」とはならないことが多いので気をつけてください。
参考文献:Michael E. Metz mmetzmpls@aol.com & Barry W. McCarthy (2007) The “Good-Enough Sex” model for couple sexual satisfaction, Sexual and Relationship Therapy, 22:3, 351-362.